「合コン」

「合コン」

合コン
合同コンパの略
男子学生と女子学生など、二つ以上のグループが合同で行うコンパ。
『大辞林第二版より』




ありし日の探偵事務所
じじぃこと桃内龍鳳の熱烈な希望により合コンが行われる事になった

普通合コンというものは居酒屋等でやるものなのだろうが、常識を打ち破る事に熱心な探偵事務所の連中は事務所で決行するのである

「なぁ・・・これって単なる職場の飲み会じゃないか?」
一参加者として出席する所長が机をどかしながら言う

「大丈夫
スペシャルゲストも呼んであるから、合コンの定義からは外れていない
何より一番楽しみにしてるじじぃが満足してるんだし、これでいいんじゃないか」
所長の言葉に、やはり机をどかしているエンシンが言う

「誰だよスペシャルゲストって」

「そのうちわかるさ」

そんな事を言っているうちに、買出しの面々が帰ってきたようだ

「「買ってきましたよ〜」」
戻ってきた小鳥遊とチカがハモり気味に言う

「おかえりナサい
待ってマシタわ」
台所から包丁を持って登場したユイチェンは、食材を受け取るとまた台所に引っ込んでいった
目から闘志がみなぎっている

「・・・燃えてるな」

「・・・すごい情熱ですね」

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』と、心因性の効果音が聞こえてきそうな勢いである

率直な意見を言う所長と小鳥遊
これが嵐の前の静けさだという事も知らず、合コン開始の時間は着実に近づいてくる

穂足、midas、儀同風華といった、事務所の常駐組に加え、須皇戒、ミッチェルなどの事務所非常勤組も現れる

現段階での面子は
エンシン、所長、ミッチェル、midas、小鳥遊影悠、須皇戒といった男性陣
ホァン・ユイチェン、七篠チカ、儀同風華、穂足といった女性陣
普段は広く感じる事務所も、机を片付けてなお窮屈に感じる

「おいエンシン、スペシャルゲストって戒ちゃんとミッチェルの事か?」

「まぁ、あいつらもそうだけど、もうちょっと来る予定だぜ」

「他に誰が来るんだ?」

「まぁ、焦るなって」


開始時間を10分前に控えた頃、入り口のドアが開き、見慣れた三人が現れた

「来てやったわよ」
「フッ・・・こんな下衆なイベントも、たまにはいいかもしれませんね」
「おぅ、来たぜエンシン
さぁ、もてなして貰おうか」

それは、RDBの三バカだった

「おいエンシン
あいつらを呼んだのか?」

「いやな、女のメンツが足りねぇからドロンジョだけを呼んだんだが、地獄耳のバカコンビに聞かれちまってな」

「んー・・・まぁ、しゃあねぇか」

所長はそう言うと壁の時計に目をやり、誰に言い聞かせるでもなく言う
「ふむ、開始の時間か・・・」

と、その時事務所の扉が開き、新たな人物が登場した

「お、さすがに時間通りだな」

「それが私のルールだからな」

霧雨縁である

それを見て、所長はエンシンに耳打ちする
「(おいエンシン、霧雨君も呼んだのか?)」

「(ああ、野郎の比率が多いもんでな
いいじゃねぇかよ別に)」

「(いや、悪くはないんだがな
・・・よく誘いに乗ってきたな)」
所長は感心したように言う

「あんたは彼女に偏見持ってるんじゃないのか?
普通に誘ったら不通に来るって言ったんだぞ」

「すげぇな・・・」




かくして予定の時間を向かえ、面子はそろった
ユイチェン謹製の中華風イタリア料理が場に並び、各自に杯が渡され、酒宴の準備は完了した
(ちなみに渡された杯は、女性には小奇麗なグラス、野郎どもには紙コップである)
あとは開始の号令だけである

「さて、皆様方が無事に集まりましたので、不肖この桃内龍鳳が乾杯の音頭をとらせていただきます」
なぜかタキシード姿のじじぃが壇上(とは言っても畳を3枚重ねただけだが)に立ち、開始を宣言する

「それでは今後の健勝と発展を祈って乾杯っ!」

「かんぱーい」

かくして、悪夢の酒宴が開幕したのである




「ん?小鳥遊は酒を飲まねぇのか?」
独りオレンジジュースを飲んでいる小鳥遊をエンシンが見とめ、声をかける

「ええ、色々あって飲まない事にしているんですよ
酒宴なのに無粋ですみませんが、僕はこれでいいです」
苦笑して言う小鳥遊

「ふーん
まぁ、無理強いはするめぇ
・・・んじゃあお前さんは茶かジュースでも飲んでな
とりあえず、形だけでも注がせて貰おうか」
エンシンは、近場にあったオレンジジュースのペットボトルを取り、小鳥遊の杯に注ぐ

「あ、恐縮です」
それを受け、杯を一気に開ける小鳥遊

ズッギューン(心因性効果音)

「ん?・・・スッギューン?
・・・幻聴か?」

そこにユイチェンが登場し、先ほど小鳥遊の杯に注いだペットボトルを取り、言う

「あ、こんな所にありマシタか」

「ん?
ユイチェン、お前もジュースか?」

「いえ、コレはスクリュードライバーと言うカクテルですワ
オレンジジュースにウォッカを混ぜるだけのお手軽なやつデスがね」

「え?
今しがた小鳥遊が思いっきり飲んでたぞ」

そういって二人はそぉっと小鳥遊を見る
見た感じ変化はないようだ
(あくまでも見た感じはだが)

「ま・・・まぁ、いくらなんでも一杯で人格崩壊はすめぇよ」

「そうデス・・・ワね
見た感じ普通デスし、気に病むほどではないと思いマスわ
(思うだけ・・・デスけど・・・)」

「まぁ、気にしないでいいナリよ
今は楽しむ事が肝要ナリね」
いつのまにか場に混ざっていたすもも

「あ、未成年が飲酒したら駄目デスわ」

「大丈夫ナリ、わたいはそこにあったトマトジュースを飲んでいるだけナリ」

「あ、ソレ・・・
ワタシが作り置きしていたブラッディマリーっていうカクテルですワよ」

「お前は何故そんな物を無造作に放置しておくんだ・・・」

ばたん!
コップ一杯を全部飲んだところで倒れ、寝息を立てるすもも

「・・・まだガキだな」

「そうデスわね」

二人は後ろで酒を飲んで以来、怖いくらい静かな大人を見ないようにして、できるだけその大人から遠ざかった




−−1時間経過−−


みんな言いカンジで酔いが回りだしている
(中には明らかに”いいカンジ”を逸脱した者もいるが)

「やれやれ・・・野蛮ですね、まったく」
そう言うのは伊川政也である

「そう?」
これは儀同風華

「もう少し高尚に飲めないものなのですかね」

「概ね同感だけど、あなた・・・」

「私はコンピューターが使えない人間と野蛮な事が何より嫌いなんですよ」

「へぇ〜・・・私もコンピューターなんて使えないけど・・・それはそうとあなた・・・」

「もう、馬鹿ばっかりで困ってしまいますよ
馬鹿で野蛮で・・・とても私の肌に合いそうもないですね」

「何一言話すたびに脱いでるんだ馬鹿ぁぁぁ!!」
伊川をコンクリートブロックで殴打する風華
ゴッっと低い音がして、上半身を脱ぎ終えた伊川はそのまま昏倒した

「一番野蛮なのは手前だっちゅうのよ、まったくもう」
風華は砕けたコンクリートブロックを無造作に投げ捨て、吐き捨てるように言った
どうも本人は気付いていないらしいが、酒のせいで力の加減が出来ていないようだ

「あははははははははははははは」
普段だったならと止めに入るような残酷ショーを見て、必要以上に笑っているチカ
チカもアルコールの影響を受けているようだ

隣では穂足が童謡を独唱していた

「ダンプにひかれてチコタン死んだ♪
横断歩道で黄色い旗にぎってチコタン死んだ♪」

「彼女は何を歌ってるんじゃ?」
じじぃが、穂足の歌を聴きながらさめざめと泣いている武井に小声で尋ねる

「貴様ぁ!日本人のくせにチコタンも知らんのかァ!」
目から涙、鼻から鼻水を流しながら吠える武井
じじぃは武井の説明をよくは理解できなかったが、関わらないほうがいい事だけはわかった




−−さらに1時間経過−−


「鈴ちゃぁぁぁぁぁん!!」
突然叫び立ち上がるmidas
立ち上がったところではっと我に返り、また座り込み、酒を口に運ぶ

「鈴ちゃんって誰ですか?」
一部始終を目撃していた戒がつぶやくが、答えは誰からも返ってこなかった


「おう若いのよ、さっきからなにを黙り込んでおる」
酒を飲んで以来、無言でその場に座り込んでいる小鳥遊に、じじぃが声をかける
反応がないのでゆさゆさと揺すってみる

「なんじゃ、寝とるのか・・・」
そう言って小鳥遊から離れるじじぃ

じじぃが小鳥遊に完全に背中を見せたとき、自分の腰に手がかかったのに気付いた

−ん?手!?−

時間にしてほんの少し━おそらく2秒足らず━の出来事だったのだろうが、アルコールの成分がじじぃに時間をゆっくりと感じさせる

視界が上に上にと向いてゆく
−ありゃ、酔ったのかいのぅ−

じじぃは天井を知覚した
−おや、蛍光灯が一本切れているようじゃのぅ−

上を向いた視界は、そのまま背後へ倒れこむようにと変化してゆく
−ありゃ、エンシンがこちらを見ているわい−

乾杯の音頭をとったときに乗った畳が見えた
−結構そこの畳も傷んでおるようじゃのぅ−

じじぃは畳を見たのを最後に、視界が暗転する

じじぃの腰に手を回した小鳥遊の体は、弦を張った弓のようにきれいな弧を描いていた
じじぃの体は海老のように曲がり、地面に両肩をつけていた
渾身のジャーマンスープレックスが炸裂したのである
画像はイメージです

「アンッ!、ドゥーッ!、トロワッ!」
近くで酒を飲んでいたミッチェルが、すかさずフランス語で3カウントを取り、小鳥遊の勝利を宣言する

「じっ・・・じじぃっ!!」
まだ酔いが浅いエンシンが、じじぃに駆け寄る

「わたしは誰の挑戦も受けるっ」
あごを突き出し、イノキのモノマネをしながら小鳥遊が言うと、近くにあったワイルドターキーの蓋を開け、ガボォグボォと一息で飲み干し、空いたビンを無造作に付近に投げる

「小鳥遊を酔わせるとやべぇな・・・」
一気に酔いがさめたエンシン

その時、じじぃがプルプルと手を持ち上げる

「どうしたじじぃっ」

「・・・・・・よぉ・・・カール・・・」

一部の人しかわからない台詞を吐いたのを最後に、じじぃは昏倒した

「駄目だこりゃ・・・ん?」

時を同じくして、近くの卓ではダンスが行われていた
「はいっ、はいっ!」
「それそれっ!」
羽扇子を持ち、事務机の上で踊っているのは霧雨縁女史と、おそらくチカが呼び出したのであろうアマノウズメ

「おいユイチェン
何事だコレは?」

「あらエンシンさん
なんでも、目玉焼きにかけるのはは醤油か塩かの白黒をつけるために、踊りで勝負しているらしいデスわよ」

「霧雨さんは最後までまともだと思っていたのに・・・
なぁ所長よぉ・・・」

「ふむ、その通りだな」

「んで、勝敗の基準はなんなんだ?」

「わからん
だが、”踊ればわかる”と言っていたぞ」

「ところで所長
あんたも相当酔ってるな」

「そんな事はないぞ
この面子の中で一番酔っていないんじゃないか?」

「嘘だね」

「ほう、なにを根拠にそんな事を決め付けるんだ?」

「自分で自分が泣いている事に気付いてないだろ」

「ほう、それは気付かなかった」

「よっしゃやれーっ」
いつの間にか小鳥遊が、踊る二人の最前列に陣取り、無責任な応援をしていた

奥からは相変わらず穂足の独唱が聞こえてくる
「川のそばをとおる風は
水の声を運んでくる♪
水の声はかえらぬ日を
耳にささやく♪」

「聴けよエンシン
禁じられた遊びのユーロバージョンの独唱なんて、そうそう聞けるモンじゃないぞ」

「なに?あれって禁じられた遊びなのか!?」

「歌詞を聴く限りではそうだな
薩摩忠作詞のやつだぞ、あれは」

「どうでもいいが、涙を流して虚空を見ながら飲み続けるのはよせ・・・怖いから」

「エンシィィィィン」

「おお、じじぃ
起きたか、首は大丈夫か?」

「ここの事務所のオナゴは皆、酒を飲むと戦闘力が増加するのか?」

「それは・・・企業秘密だ」




−さらに1時間経過−


チカは寝入っていた
寝ながらも時々笑っているのが怖い
狛犬が犬の姿をとり、チカに寄り添って寝ている

小鳥遊は武井と肉弾戦で戦っていた
ミッチェルはそのとばっちりをくらい、付近で昏倒していた
原因は不明だが、殴り合いの前に
「喧嘩祭りだ、気に入らんやつはぶん殴れ」と、小鳥遊が叫んでいたのが聞こえた
おそらく祭りの最中なのであろう

midasはカッと目を見開き、黙々と飲んでいる
隣に置いてあった樽が1つ空になりかけている

伊川はその後再び起き上がり、再び脱ぎだしたんで、ロッカーに閉じ込められている

霧雨とアマノウズメはまだ踊っている
いつの間にか穂足も踊りの輪に加わっている
誰に召喚されたか、ピクシーのミッカも一緒になって踊っている

「ものすごい有様じゃの」

「ううむ、俺も羽目をはずす予定だったんだが、その前にみんな壊れたんで、羽目をはずすどころじゃないな・・・」

エンシンとじじぃが、戦々恐々といった状態の事務所を見回し、ため息をつく

「あれ?すももはどうしたんだ?」

「隣で寝かせておるぞ
ここで寝かせておいたら、いつロリペド野郎の毒牙にかかるかわからんからの」

「ところでエンシンよ、お前の後頭部についているのはアクセサリーか?」

「ああ、ユイチェンのペットのフェレットだ
噛み付いたまま寝入ったんで放って置いてる」

「ほう、名前は何というんじゃ?」

「エンシンだ」

「いや、お前じゃなくて後頭部の生物のことを聞いておる」

「だからエンシンっていうんだ」

「はぁ?」

「ユイチェンに勝手に命名されたんだよ
好きでエンシンって名前になったワケじゃねぇよ」
エンシンは吐き捨てるように言った

「で、その飼い主のユイチェンちゃんは?」

「さっきから一心不乱に料理を作ってるよ」

「所長はどうした?」

エンシンは無言で指差す
その先には、ネクタイを頭に巻き消火器に話しかける所長の姿があった

「所長、おまえもか」

じじぃは天を仰いだ

「あれ?エンシンよ、あそこの二人はまともなようじゃぞ」
じじいが指差した先には、熱心に話し込む戒と景子がいた

「ああ、あいつらもまともなようで壊れてる
話を聞けばわかるさ」

「どれどれ・・・」

聞き耳を立てるじじぃ

「だからね、私はあの日確かに見たんです
その後の文献を見てもチュパカブラに間違いない」

「でも、予算案が通ったからには国際世論を味方につけたわけでしょ?
うちも名門だけど、やっぱりアメリカには勝てないわけなのよ」

「そうですねぇ、いざ学会に発表するとなると異端の烙印を押され、最悪学会を追放されかねない
そうなったら私の研究にも影響が出てしまう」

「当面の敵はJASRACってワケね
名門が逆に仇になっているんだわ」

「しかし、当面はいかに私が新しい生物を創生するかが肝要なわけですよ」

「何よそんな事
ウチは遡れば平安貴族なのよ、別に庶民なんて踏み台にすればいいじゃないの」


「・・・・・
聞いてると頭がグラグラしてくるのぅ・・・」

そのとき二人の目の前で、小鳥遊が武井にパイルドライバーを炸裂させた

『ズシン』と低い音が事務所に響く
「やってるのぅ・・・」

「ああ、カール・ゴッチでもこうは見事に決まらねぇな」


かくして、その後数時間にわたって狂乱の宴は続いていった
その後いろいろあったが、詳細を覚えているものはいなかった
詳細を知る数少ない人物であるじじぃとエンシンは、その話題になると黙り込むのだった




「合コン」
━了━



2003/06/20

原案:おがで

文章:しろじろ〜







〜余談〜

悪夢の宴の次の日の午後

「・・・あのロッカーから何かうめき声が聞こえませんか?」

「ん?
・・・そういえば・・・聞こえるね・・・」

「・・・ああ・・・聞こえるな」

「聞こえます〜
心霊現象・・・ですかね・・・」

「ふむ・・・タチの悪い怨霊だったら俺が調伏してやろう」

一同が万が一に備え、思い思いの武器を持ってロッカーを開けると・・・

「もがー」

「あ・・・・・・」

そこにはパンツ一丁で猿ぐつわをされ、縛られている伊川がいたという




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