第26話「幽霊列車」

第26話
「幽霊列車」

1 深夜に走る幽霊電車の対処願い 2003/09/20 04:17:50
発言者 : 鉄道職員 --- ---
最近深夜に、わが社の所属ではない電車が走るんですよ
噂によると、その列車には骸骨やら幽霊やらが乗っているそうですが・・・これはただの噂でしょうけどね
とにかく、軌道の近隣住宅から苦情が来るんで、調査と対処をお願いしたいのです



2 ふむふむ 2003/09/20 04:20:07
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
わかりました、できる限りのことはやってみましょう

・・・さて、誰か行く人いるかい?



3 参りましょう 2003/09/22 10:33:19
発言者 : ユイチェン --- ---
興味があるワ・・・。
そろそろ故郷にワタクシの仕事の成果を報告する
書類でもつくらなくてはいけないデスシ、参りましょう。
(帰って来いって五月蝿いのよネ)



4 決定っとな 2003/09/23 03:17:27
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
なにやらお家の事情で大変なのね
んじゃ、この件はよろしくー


深夜遅く、雨の振る中線路で何かを待つ男女
終電の時間はとうに過ぎている

最近、幽霊列車が通るという噂のあるこの辺りでは、その男女こそが幽霊に見えたのかもしれない
その証拠に、付近を通りかかってその男女を見た人は、幽霊を見たかと思い顔色を失い、足早にその場を立ち去る

「どうなっているんデスの!?
列車なんて全然こないじゃないデスか!」

線路際で何かを待つ男女の女のほうが、抗議を込めて男に言う
女のほうはユイチェンだった

「いや、間違いないっす
俺の幽霊列車発見センサーがそう告げてるっすよ」

見るからに怪しげなアンテナが一杯付いた計器を持った男が、そう反論する
男の方はミッチェルだった

この二人が、いつ来るか(そもそも本当に来るのかどうか)も判らない幽霊列車を待ち構えていたのである

そもそも、ミッチェルの持つ『幽霊列車発見センサー』というのが怪しい代物である
どういう構造で幽霊列車を見つけるのかという理由を聞いても、「科学の力っすよ」の一点張りで全然教えてくれないそれがただ

でさえ怪しい事をさらに引き立てていると言えよう

もっとも、幽霊列車を見つける装置の作成を、ミッチェルに頼んだユイチェンもユイチェンなのだが

こんな調子で、いつ来るか判らぬものを都合2時間待ち、今日は帰ろうかと思い始めたとき、その列車は来た
ただし、隣の車線に

あわててダッシュで追いかけるも当然ながら追いつかず、この件は次の日に持ち越しとなった




 −2日目−

今日も雨が降る中、幽霊列車を待つ二人
ミッチェルの「幽霊列車発見センサー」には、反応が現れているらしい
「らしい」というのは、その怪しげなセンサーのデータの見方がミッチェル以外の誰もわからないからだ
名前からして胡散臭い機械だが、昨日幽霊列車を探知したという実績があるので一蹴するわけにも行かない

「で、いつ来るかはわからないんデスの?」

うんざりした口調でユイチェンは尋ねる

「さぁ〜・・・わからないっすねぇ」

昨日今日と雨の中無駄に待っているので、ユイチェンは精神的にかなりキている
ミッチェルが、何がうれしいのか計器を見てニヤニヤと薄笑いを浮かべているのが、これまたユイチェンの苛立ちに一役買ってい



いっそ倒しきれないほどの悪魔の大群でも襲来してもらった方が楽かもしれない
そんな事を考え、ふと時計を見る
昨日幽霊列車に乗り逃した時間は過ぎている

列車のくせに時間通りに動かないとは何事かとも思うが、何せ相手は国や民間の運営機関ではない
たとえ抗議されても痛くも痒くもないだろう

ユイチェンが倦怠感を紛らわすため、ミッチェルに何か言おうとしたその時

「来るっすよ、通るっすよ!」

ミッチェルが叫ぶ
ミッチェルが叫んで間もなく列車は来た

瘴気をまとい、この世の禍々しさを凝縮したような列車だった
今日は車線こそ合っているが、当然ながら乗り合いバスと違い、一向に停車する気配がない

ここで乗り逃したら、また明日もこんな風に待たねばならない
その事実に恐怖したユイチェンは、列車に平行に走り出した

だが、当然ながら徒歩では速度に限界がある
ユイチェンは持っていた傘をたたみ、逆に持つ
柄の部分を何かに引っ掛けようとするが、引っかかりそうな場所はない

ユイチェンはすかさず懐から銃を取り出し、窓ガラスに向けて撃つと、ガラスに穴が開く
穴が開いたガラスに傘を引っ掛け、そのまま半ば引きずられるように走る

腕にかかる物凄い負担に、危うく傘を持つ手を離しそうになるが、傘を両手で持ち、ぶらさがる事で一時的にこらえようとする
その時、ばりんとガラスが割れ、ユイチェンの体が沈む
一瞬ひやりとしたが、窓枠のところで改めて引っかかり、沈むのが止まる
だが、今度は傘の方がひしゃげてきている
傘が壊れるのは時間の問題である

ユイチェンは傘にぶらさがりながら、かなり無理のある体勢でガラスに蹴りを入れる
普通ならびくともしないだろうが、既にガラスの一部が割れていたのが幸いし、その一撃でガラスの8割がたが粉砕された

もう一度ガラスに蹴りを入れる
蹴りを入れた場所にガラスはなく、足が空を切る
が、その蹴りは破壊が目的ではなく、体を車内に潜り込ませるための蹴りだった

勢いで電車内に"文字通り"転がり込むユイチェン
冷たい汗に体を覆われながら、ユイチェンはつぶやいた

「香港映画では良く見る構図デスが……
まさかワタシがやる事になるとは思いませんでしたワ」



さて、なんとか列車に乗り込んだユイチェン
周りを見回すと、辛気臭い顔の幽霊が列車一杯に詰め込まれている
各々、恨めしさを濃縮したような顔でユイチェンを見ている

反射的に腰に手をやるユイチェンだが、このとき初めて今この場に武器が無い事に気付いた
おそらく乗り込むときの激しいアクションが災いしたのだろう
持ってきてはいたのだが、乗り込む際に落としたり、列車を待っていた場所に置きざりにしたのだろう

幽霊をにらみつけながら、手探りで装備を確認する
内ポケットに入れていた携帯電話と、護符が数枚
それだけだった

入り込むときに使った銃も、COMPすらも無い
置いてきた荷物は後で電話してミッチェルに拾わせるとしても、武器と呼べるものが全く無いのが、いささかならず不安が残る
せめてもの救いは、幽霊たちがユイチェンを睨むだけで、なんら行動を起こさない事である

幽霊たちは何故この列車に乗っているのか
何故何も行動を起こさないのか
この列車は何故走っているのか
この件に関しては、わからない事が色々多い

とりあえずユイチェンは、先頭の車両へと進んでいく事にした
電車である以上、操縦する人はいるはずである
他にいい案があるでもないので、周囲を警戒しつつも先へと進んでいく

2両ほど進んだ時だった
前から車掌らしき服装をした人物が向かってくる
服装こそ車掌のそれだが、よく見るとその車掌には肉らしきものがついていない
その顔はこの列車を象徴するように、骸骨そのものだった
車掌は幽霊に何かを話しかけ、何かを確認しているようだ
どうやら乗員の切符を確認に来ているらしい

もちろんユイチェンは無賃乗車である
ユイチェンはしばし考え、懐から呪符を取り出す
取り出した呪符に気を込めると、それは人の形になった
式神である

ユイチェンは作った式神に命じ、車掌の横を通り抜けさせてみた
式神は車掌に肩をつかまれ、何か言われる
そして、話し合いの末車掌は口から炎を吐いた
あっさり燃え尽きる式神
どうやらこの列車においては、無賃乗車は死んで償わねばならない事であるらしい事がよく分かった

倒して倒せぬ相手ではないだろうが、丸腰の今では勝ったとしても只では済まないだろう
そう判断したユイチェンは、新たな呪符を取り出し、自分の腕に貼り、そのまま身動きせずにいる
車掌は切符を拝見にどんどん近づいてくる
本来ならユイチェンの切符を見るだろう位置まで来たが、まるでユイチェンが見えないかのようにユイチェンの横をすり抜け、次の

客へと向かっていった
車掌はユイチェンが使った呪符のせいで、実際に見えなかったのだ

ユイチェンは頃合を見て、再度先頭の車両へと向かっていく事にした

相も変わらず辛気臭い顔の幽霊達を掻き分け数両前へと向かうと、先頭らしき車両へと着いた
そこには運転手らしき服を着た骸骨がいた
骸骨は、何が楽しいのか陽気そうに首を振り、運転レバーらしきものをガチャガチャといじくり回しているのが見える

ユイチェンは窓を開けると、いきなり頭蓋骨に蹴りを繰り出す
しゃれこうべが操縦室を景気良く跳ね回る

「ゴメンなさいネ、故あってこの列車を止めさせていただきマスわ」

そう言うとユイチェンは、非常停止レバーと思われるレバーを思いっきり引っぱった
キキキキキキキと、激しい金属音がして、列車全体が激しく揺れる
支えがないと、体がどこかに吹っ飛んでしまいそうな按配である

しばらく揺れが続いた後、窓から見える外の風景が完全に停止する
列車が停まったのであろう

「止まりましたワね・・・」

「おめぇ、なんて事するだっ!」

骸骨が、自らの頭蓋骨を小脇に抱え、ユイチェンに抗議する
骸骨の目は怪しく光っていた

「この世の理を乱す列車を停めただけデスわ」

飄々とした口調で言うユイチェン

「おーのーれーっ」

骸骨は、脇に抱えた頭部を元の位置に戻すと、猛然とユイチェンに襲い掛かってきた

ユイチェンは慎重に骸骨の攻撃を回避し、後ずさりながら先頭車両から客席へと戦場を移す
幽霊は迷惑そうな顔で、ユイチェンたちの行動を傍観している

一発、二発
骸骨は突きと蹴りを繰り出す

一発一発、あるいは受け、あるいは回避し、敵の攻撃をさばいていく
回避の合間に、ユイチェンも攻撃を繰り出す
だが、接近しすぎると骸骨が火を噴出す
これが実に厄介だった

受けでは交わせず、回避に頼るしかない
そのため骸骨に今一歩踏み込めず、攻撃が致命打にならない

骸骨とユイチェンが一進一退の攻防を繰り広げる中、奥の方からもう一人骸骨が現れた
先ほどから客の切符を見ていた車掌だろう
一人でもてこずっているというのに、さらにもう一人追加である
ユイチェンは勝機が薄いと見て取る

せめて武器があれば・・・
そう思っても武器が出現するわけでもない

ユイチェンは挟み撃ちになるを嫌い、電車の席を使って立体的に移動する
幽霊が迷惑そうな顔をするが、命には代えられない

跳ねる飛ぶを駆使して、戦況が絶望的になる事は避けたが、状況が悪い事には変わりがない
髑髏が二人まとめてユイチェンに向かってくる

ユイチェンは徐々に下がる事で致命打を避けるが、相手の攻撃回数が最初の2倍である
防戦一方になり、とても反撃どころではない






ユイチェンはどんどん骸骨に押されていく
情況が好転する要素の無い中、不意に列車に衝撃が走った

とっさの出来事に転倒するユイチェン
それは骸骨にとっても不意の出来事であったらしく、同じく転倒する
好機と見て取ったユイチェンは、とっさに起き上がり、骸骨に向かって自分の体重を乗せてかかとを落とす
だが、すんでのところで回避され、自分の足にダメージが来る

なまじ自分の体重をかけたがために、涙が出るほどの痛みがあったが、悠長に痛みをこらえるほどの余裕は無かった
さらにユイチェンに追撃をかける骸骨

状況がどんどん絶望的になっていく中、さらに追撃を受ける
さらに後ろに吹き飛ぶユイチェン

吹き飛んでいる最中、ユイチェンは側面にに信じられないものを見た
エンシンである
エンシンとは言っても、脳味噌筋肉の方ではなく、事務所で飼育しているフェレットの方のエンシンである
そのエンシンが、今回使おうと持ってきていた鉄鞭をくわえていた

ユイチェンは状況が良く飲み込めないままに、エンシンのくわえている鉄鞭を握り、反撃を開始する
中国武術において、武器は手の延長である
手の延長という事は、単純に考えて間合いが伸びるという事である
つまり、いままで素手だったためにかすり傷で済んだものが、致命傷になりえるのである

今まではその間合いの狭さから反撃もままならなかったユイチェンだが、押されながらも反撃が出来るようになった
防戦一方だったユイチェンの形勢が逆転したのだ
一歩、また一歩と後退しながらも、ユイチェンは着実に骸骨に損傷を与えてゆく

骸骨の片方が完全に沈黙した時、パワーバランスが裏返った
元々素手でも一対一なら何とかなった相手である
武器を持ったユイチェンが骸骨を粉砕するまで、さしたる時間はかからなかった

かくして骸骨を葬ったユイチェンだが、連戦により疲労は隠し切れず、肩で息をする
呼吸が整った時、エンシンがユイチェンの元に寄り添ってきた

訳のわからぬままに、ユイチェンはエンシンを抱きしめ、言う

「詳細はよく分からないデスが、おかげで助かりましたワ」

そんなユイチェンの感謝の言葉を知ってか知らずか、エンシンがユイチェンの腕をすり抜け、足元に着地すると、窓に向けて走っ

てゆく
エンシンは窓で一度ユイチェンのほうを見ると、そのまま外へと出る

「(ついて来いと言っているのカシラ?)」

ユイチェンはエンシンを追って窓から外に出る
あたりを見回すと、進行方向とは逆の方向に、エンシンの銀色の毛皮が見えた
エンシンはユイチェンのほうを見ていたが、ユイチェンが自分を見たと確認した時、さらに奥の方にと走る

ユイチェンがエンシンの行った方へと向かう
エンシンはどんどん奥に行き、ユイチェンを列車の最後尾へと導いてゆく
最後尾を過ぎたあたりでエンシンは走るのを止め、ユイチェンのほうを見る

そこには、停止していた列車に車が追突していた
この車には見覚えがある
運転席を見ると、やはりミッチェルが乗っていた

ユイチェンを車で追ってきたのだろうが、まさか列車が停まっているとは知らず、追突したと思われる
当然ながらミッチェルは運転席で気を失っている
車は再起不能だろうが命に別状はなさそうだ

ユイチェンは、助手席に自分の荷物が積んであることに気付く
列車に乗る際に落とした銃やCOMPだろう

ユイチェンはそれらひょいひょいと手に取り装備した後、一寸これからどうしたものかと考る
COMPで現在位置を確認すると、携帯電話で事務所に電話をかける
深夜なので誰もいないかもと危惧したりしたが、折りよく所長が電話に出た

「はいはい、こちら佐原探偵事務所です
御用のある方は、深夜を避けお電話ください」
所長は心底眠そうな声でそれだけ言うと、用件も聞かずに電話を切ってしまった

ユイチェンは一瞬あっけに取られたが、すぐに気を取り直し、もう一度電話する

「はいはい、こちr」
「所長サン、いるんでショ!?」

そのまま放って置くとまた電話を切られるので、所長の能書きを遮り、叫ぶ

「ああ、なんだ、ユイチェンか
悪いけどあと3時間でいいから眠らせてくれないか」

「そんな暇はないデスわ
実はデスね・・・」

ユイチェンは、眠そうな所長に現在の状況と位置、ミッチェルが車をぶつけた事を報告し、事故車の対処を要求した

所長がちゃんと対処してくれるか激しく不安ではあったが、一応報告はしたんで、もし対処してくれなくて何かあったら所長の責

任である
ユイチェンは自分にそう言い聞かせ、自身は列車の調査を再開する事にした




列車に再度乗り込むユイチェン
ユイチェンが列車内に漂う違和感に気付くのに、さしたる時間はかからなかった
乗客が消えかかっているのだ
乗客はあいかわらず恨めしそうにユイチェンを見ているのだが、ある者は透明度を増し、ある者は骨だけになっていたりと、消え

方に個人差はあるが、その存在が消滅しかかっている事で共通している

いつからそうなっていたのかはよく分からないが、冷静にあたりを見回す余裕が出来たのがついさっきからの事なので、戦って

いる間から既にそうなっていたのかもしれない
念のため式神を出し、背後を警戒させる

警戒しながら歩くが、特にそうなった原因らしきものは見えない
途中に悪魔らしきものがいるわけでもない
幽霊の存在を消し去るような装置があるわけでもない

「何が原因なのカシラ?」

最前列から最後列まで警戒しながら歩いてゆくが、ついに原因やその兆候となるものは見つからなかった

最後列までたどり着いたユイチェンが首をかしげながら引き返そうとした時、背後で警戒しているはずの式神がいないことに気

付いた

あわてて周囲を見回すが、近くに何かがいるわけでもない
だが、この列車には何かがある
それだけはわかった

ユイチェンは再度式神を出す
加えてコマイヌを召還し、背後の警戒を強化する

前列に向けて少し歩いたあたりで、式神だった呪符が見つかった
札を見ると外傷は無い

式神は普通は一定以上の損害が出たあたりで呪符に戻る
その際耐久力を上回った損傷は紙に来るのだが、この呪符にそれが無いという事は、耐久力と同等の最小限の損害を与えた

か、徐々に損傷を受けたかのどちらかである

「もしかしたら・・・」
ユイチェンはCOMPを取り出すと、分析モードを立ち上げる

「やっぱりデスわ・・・」

COMPのモニターが、この列車そのものが悪魔だという事を表示していた



一応黒幕といえるものが列車だという事は判ったが、現段階で手の打ちようが無い
武器は銃と鉄鞭と数枚の呪符だけ

現時点で列車を破壊するだけの武器は無く、封印するだけの呪符も無かった

「困りましたワね・・・」
途方に暮れるユイチェン

「ほう、困ったっスか」
背後から突然声がした
突然の声にビクっとするユイチェン
あわてて背後を見ると、それは気を失っているはずのミッチェルだった

塩ビパイプを小脇に抱え、空いた手にはごつい工具を持っていた

「あら?気がついたんデスの?」

「ああ、もう大丈夫っすよ
こんな面白そうな相手を独り占めしようったって、そうは行かないっすよ」
ミッチェルはなにか何違いしているようだが、こと分解に関してこの男に勝る者は無いだろう
事実、ミッチェルはその神がかった分解能力をフルに発揮した
奇声とも歓声ともつかない声を上げながら、うれしそうに分解していくミッチェル

外は雨こそあがっていたが、ゴロゴロと雷が鳴っていた

「ユイチェンさーん、ちょっと来てくれー」
しばらく時間が経ち、退屈そうに外の様子を見ていたユイチェンを呼ぶ声が聞こえる

ミッチェルの元に行くと、床板を引っぺがしたミッチェルが、動力部らしきものを分解しようとしていたところだった

「何デスの?」

「あれ、応戦して」
ミッチェルはユイチェンを一瞥すらせず、何かを指差す
その指差す方には、肉の塊に目玉がついたような、気色悪い悪魔がいた

「アレは?」

「さぁ?
ここが心臓部だから、列車の人じゃないの?
鬱陶しいからなんとかしてね」

言いながらも、ミッチェルはさらに作業を続行する
見るとその肉塊は、ミッチェルが指差した場所以外にもうようよいた

「何とかしてと簡単に言いマスけどネ・・・」

ユイチェンがそうぼやいたとき、肉塊の一つと目が合った
その目に敵意が写る

「来ますワね」
すかさず鞭を振るうユイチェン
べしっと音がして、砕ける肉塊

ちょっとでも目を合わせれば、たちまち襲ってくる
鞭だけでは追いつかないほど多くの悪魔が、一気に押し寄せてきた
鞭で、拳で、蹴りで、銃で
状況に応じてそれぞれ応戦する

こんな状況の中、ミッチェルはマイペースで分解を続けている

「キリが無いデスわ」
何体目かも忘れるほど多くの悪魔を屠ったユイチェンが、うんざりして言う

その時、ミッチェルが声を上げた
「よし、終わりっ」

オイルまみれになりながら、手には取り出した機械の塊を持っている

「全然終わってないじゃないデスかっ」
悪魔と戦いながら、ユイチェンが抗議すると

「いや、欲しいものは手に入ったから、あとはこの汽車イラネ
もう出ていいよ」

ミッチェルは取り出した部品を持って、スタスタと外の方に歩いてゆく

「ハァ?」
昔からバカと天才は紙一重と言うが、ユイチェンはこの紙一重の言う事が本格的にわからなくなってきている

ユイチェンがミッチェルと共に外に出た時、背後の列車がいきなり爆発した
激しい爆風がユイチェンの髪をなでる

「!?」

「おーおー、火薬入れすぎたかな」

ミッチェルの手には、小さなリモコンが握られていた

「・・・・・・・・!?」
酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせるユイチェン
目の前の破天荒な出来事に気が動転して、言葉が出てこない

「いや、やろうと思えばいつでも壊せたんすがね
ちょっとこの部品が欲しかったモンで」

思えば、ミッチェルが列車内に持ち込んだ塩ビパイプ
あれが爆発したのだろう
それにしてもこの男は・・・
そんなことを思っている最中、横から声がした

「おい、街の真ん中で何を爆発させてるんだ」

やっと迎えに到着した所長だった
ミッチェルの車を牽引するためにトラックで来たのだが、牽引が必要な車もろとも爆破されたようだ

「あ、所長、実はデスね・・・」

「話は後だ
目撃される前にばっくれるぞ」

「ういー」
ばっくれる原因を作ったやつが、のどかに言う
そして所長のトラックは、証拠隠滅後速やかにその場からばっくれた

再び雨が降りはじめる
その雨はどんどん勢いを増していった





「いやぁ、散々だったっすね」
事務所に到着後、ミッチェルの第一声がこれだった

「ええ、おかげさまデネ」
ユイチェンは皮肉増量で返事をするが、それはミッチェルのツラの皮に阻まれ届く事は無かった

時は既に朝
夜通し列車退治をやっていた事になる
所長は借りたトラックを返しに行き、ただいま不在になっている


「あれ?誰かいるナリか?」

隣の神社からすももが事務所を覗いて言う

「ええ、今帰ったところデスの」

「こんな時間まで仕事ナリか
大変ナリね」

「それでも収穫はあったんでいいけどな」
ミッチェルは列車の部品をカバンから引っ張り出し、言う

「で、今回はどんなヤツを相手にしたナリか?」

「一言で言うと、幽霊列車でしたわネ」

「へぇ〜、いま流行りの幽霊列車ナリか」

「流行り?」

「うん、流行ってるナリよ」
すももがうれしそうに話し始める

すももの話によると、学生の間で噂になっている列車らしい
細部のディティールは違えども、深夜死人を乗せて何処かへ走ってゆくという事は共通のようだ
昔流行った人面犬や口裂け女のような怪異の一種なのだろう
人の恐怖心は魔物を呼ぶ
現れたから噂になったのか、噂になったから現れたのかは今になってはわからないが、怪異とはそういう物である

こうして、この事件は幕を下ろした




第26話「幽霊列車」
━終━



〜余談〜

数日後の香港

「アナタ、ユイチェンから手紙が届きましたワよ」

「ん、そうか・・・」

そう言って、仕事の報告書を読む

「ふむ、元気ににやっているようだな」

「黄仙も無事にあっちに着いたようデスね
あっちではエンシンと名付けられているみたいデスわ」

「ふむ、この報告書を読む限りじゃ本人は気付いてないかもしれないがな」

「なんにせよ、無事で何よりだ」

「そうですわネ」




2004/4/20

文章:しろじろ〜




戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送