第28話「墓地」

第28話
「墓地」

墓地の怖い話 2004/02/02 07:12:15
発言者 : 若い僧侶 --- ---
墓地に、色々悪い噂が流れているんですよ
魔物を見たとか幽霊が出たとか
調査しては頂けませんかね


2 墓地ねぇ・・・ 2004/02/02 07:18:05
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
了解しました

・・・ふむ、こりゃまた定番だな
さて、誰に行ってもらおうか・・・


3 さてと 2004/02/07 09:15:55
発言者 : 小鳥遊影悠 --- ---
色々と新規の以来が増えているようですし
ぼちぼち僕も仕事を請けて見ますかねぇ。

墓地は家業の関係でなれてますし
この仕事は僕が引き受けますよ。


4 了解 2004/02/10 07:04:31
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
んじゃ、この件は任せたよん


住宅地の片隅にある、小奇麗に近代化され省スペース化した共同墓地
そこが今回の現場だった

現場は探偵事務所から離れており、自宅から直接行った方が早いので、所長に家から現場に直接行くように勧められた

小鳥遊は特に断る理由も無く、荷物をまとめ現場へと向かおうとしたところ、玄関先で必要以上に大きい声で呼び止められた

「おう影悠、今日も仕事か
ずいぶん稼ぐのぅ」

これは兄の六道である

「ええ、今日は直接現場に行くんですよ」

酒臭いとか無精ヒゲを剃れとか、うるさい事は一切言わず、影悠はおだやかな笑顔で兄に言葉を返す
六道という男が確固たる信念に基づき、酒を飲み、肉を食い、身だしなみを整えるのを面倒臭がっている人物であると知っているからだ

「ふむ、それで今日はどこへ行くんだ?」

「墓場ですよ
何でも、魔物を見たとか幽霊が出たとかいう話があるそうです」

「ふむ、墓場か・・・」

六道はそう言うとしばし考え、”ちょっと待ってろ”と言い残し、自分の部屋へと戻っていった
影悠が六道に言われるままに、不思議そうな顔をして待っていると、しばらくして六道が小さなお守りを持って戻ってきた

「影悠よ、これを持って行け
どうしても困った時に中を開けるがいい」

「え?
何ですかこれは」

「さぁな
開けてからのお楽しみだ」

「そうですか・・・わかりました」

お守りを受け取る影悠
六道は影悠がお守りを受け取っても手を引っ込めない
その意図はすぐにわかった

「・・・・・・それで、いくらなんですか?」

「え?あ?
そういうつもりじゃなかったんだが・・・そうだな、大1枚でいいぞ」

六道は白々しく言う
影悠は苦笑して財布から1万円を取ると、六道に渡す

「お酒は程ほどにしてくださいよ」

六道は返事の変わりに豪快に笑い、自分の部屋へと戻っていった

「困った時に・・・ですか・・・」

影悠はお守りを見る
中に何が入っているかはわからないが、これが兄の気持ちなのだろう
袋に『安産祈願』と書いてあるのは見なかったことにし、お守りをポケットに入れ、影悠は自転車で現場へと向かっていった

今日はいい天気の朝だった



現場へ自転車で40分かけ到着し、まずは依頼人である僧侶に会う事にした

依頼主である僧侶はまだまだ若く、頼りなさそうな人物に見えた
(それでも影悠よりは年上なのだろうが)
僧侶という事で自分の親と面識もあり、話がいつも以上にスムーズに進んだように感じる

今回の件について聞いたところ、幽霊が出るとか魔物を見たとか、事務所で聞いた程度の話しかわからなかったので、実際に墓場に行って調べてみることにした

そこは小奇麗に近代化され省スペース化した共同墓地
それ以上でもそれ以下でもなかった
言ってみれば、墓地のアパートである
時代の流れとはいえ、識別という用途のみに限定されたような墓石を見ると、死者に申し訳なく思えてくる
それは、影悠が寺で育ったせいもあるのかもしれないのだが

まずは、ただその場を歩いてみる
それだけでも、何か深刻な原因がある場合はわかるものだ
だが、なにも感じるものはなかった

歩いてみて判ったのだが、本当にここは墓地かというほど霊気が感じられないのである
普通の墓地ならば、ただそれだけで霊気を感じるものであるのに
きちんと墓参りを欠かせない家であっても、墓を荒れるに任せるような家であっても、死者の思念というものは感じるのに、ここではまったくそれが感じないのだ

「……共同墓地というのはどこもこんなものなんでしょうか?」

影悠が誰に聞かせるでもなくつぶやくと、カバンから笛を取り出し、吹き始めた

━嘯呼魔鬼━
笛の音で付近の霊を呼び出す術である

静かな墓地に笛の音が響く
だが、その静寂は長くは続かなかった

「あー、そこにいるのはタカナシナリか
何をやってるナリ?」

突然の大きな声に、笛の音が乱れる
精神を集中していただけに、その乱れようはいっそ見事だった

声の主は女の子である
そして、その特異な語尾から声の主が誰であるかが顔を見ずともよく分かった

「すももちゃん
こんなところで何をやっているんですか」

「そんなのわたいの勝手ナリ
休みの日はお出かけするものナリよ
タカナシこそなにをやってるナリかっ」

声の主は事務所の隣でテナントを出している正義神社の巫女、桃内すももである
彼女がどのような用件でこんな場所にいるかはわからないが、今この少女が娯楽に飢えている事は間違いないようだ

「僕は仕事をやっているんですよ」

「仕事ナリか?」

「そうです、お仕事なんですよ」

「じゃあ、わたいも手伝ってやるナリよ
お礼はそんなにいらないナリから、手伝って欲しい事を言うナリっ」

そんなにという事は、多少はお礼がいるという事か・・・
苦笑しながら、断る事でこの子を刺激することは避ける事にした

「わかりました、それじゃあ僕の仕事を手伝って頂きますか
とりあえずは、この笛を吹き終わるまで待っていてくださいね」

「わかったナリよ
さぁ、早速吹くなり」

すももに急かされるままに笛を吹く影悠
とんだ邪魔が入ったが、それが影響する事は無く、一曲吹き終え、嘯呼魔鬼が成立した
・・・・・・はずだった

だが、意に反して反応はまるで無かった
これは術が失敗したか、この付近に霊や悪魔はいないかのどちらかである
術の方は成功の手ごたえはあった
それで反応がないという事は、この付近に霊や悪魔はいないという事である
だが、それはありえない
ここが墓場である以上、良い悪いはともあれ、霊が全くいないという事はありえないのである

影悠は術が失敗したと思い、もう一度笛を吹いてみる
だが、結果は同じだった

「タカナシぃ
一体どうしたナリかー?
何かが起きるんじゃないナリかー?」

「ええ、そのはずなんですがね
おかしいですねぇ・・・」

影悠はさらに術を再三再四繰り返すが、霊や悪魔の類は全く現れなかった

「それで、まずここで何が起きてるナリか?
説明するナリ」

「いや、ええ、ここに悪魔が出るとか霊が出るとかという話が出ているんです
僕はそれを調べに来たんですよ」

「それと今の笛は何の関係があるナリか?」

「ええ
だから、付近の霊を呼び出して事情を聞こうとしたんですが、誰も出てこないんですよ」

「ふーん
つまり、噂のヌシなんていなかったナリね」

「いえ、問題は霊が誰もいない事なんですよ
墓場という場所には霊が付き物なんです
それすらも居ないのは、なにか問題があるはずなんです」

「問題って何ナリか?」

「それが今はわからないのです
だから困っているんですよ」

実際影悠は判断に苦しんでいた

原因が何であるのか
墓場の霊はどこに行ったのか
噂は本当なのか

影悠は判断に悩みながら、聞き込み場所の聞き込みをすることにした

墓地からちょっと移動した場所にある小さな雑木林
ここで、改めて嘯呼の術をかけ、この周囲の霊に墓地の霊について聞いてみることにした

林全体に笛の音が響き、曲がやんでから暫くすると、周囲に白いものが浮かび上がる

「おー、幽霊ナリよーっ」

感心するすもも
術をかける前には、ここの幽霊も存在しないのではないかという危惧もあったが、それは杞憂に終わったようだ

「で、この幽霊をどうするナリか?
倒すナリか?使役するナリか?
わたいも手伝うナリから、何なりと言ってみるナリー」

「ええ、ありがとうございます
今はとりあえず聞き込みだけですんで、敵が現れたときにお願いしますね
今はここで待機していてください」

丁寧な言葉ですももの動きを封じる影悠
なにやら子供の扱いは慣れているようだ

そんな中影悠は、近くにいた幽霊に話しかける

「ちょっとすみません、お尋ねしたいことがあるのですが」

「あー?オレ?
なんの用よ?」

幽霊の粗暴な口調にちょっと戸惑ったが、深くは気にせずに続ける

「あの墓地のことについて知りたいのですよ
どうしてあそこには、あなた方のような方たちがいないのでしょうか
ご存知だったら教えていただきたいのですが」

影悠の質問に、幽霊は複雑な顔を浮かべながら考え込む
しばらくすると、幽霊は堰を切ったように話し出した

「あそこにはバケモノが現れだしたんだ
何でも喰うバケモノがよ
あの墓の奴らはみんな食われちまった
おれもいつか食われちまうよ
助けてくれ、助け・・・」

幽霊は頭を押さえながらガタガタ震えだし、最後のほうでは実体化を維持できず、何かを言い切る前に消えてしまった

あの墓地に何かがいる事はわかった
その話を補足するために、さらに聞き込みを続ける

退屈そうにしていたすももも駆り出し、幽霊から出来るだけ多くの事項を根気よく聞き込む
聞き出した情報を整理してみると

”墓には何かがいる”
”『何か』は幽霊を糧としている”
”『何か』は夕方か明け方現れる”

以上の事がわかった

「夕方・・・ですか・・・」

影悠が誰に聞かせるでもなくつぶやく

「逢魔が刻ナリね
かっくいーナリーっ」

妙にうれしそうなすもも

夕方まではまだ時間があるので、今得た情報を元に、寺で再度聞き込みをしてみる事にした
バケモノを見たというのはどんな人で、どういう時間にどんなモノを見たのか

また、情報収集は寺だけではなく、近所でバケモノを見たという人にも会い、直接本人から聞いてみたりもした

結局、幽霊の話と似たり寄ったりか、噂に尾ひれがついて似ても似つかぬかの情報かのどちらかだった

「これは絶対にバケモノがいるナリね
妖怪変化か物の怪か、はたまた魑魅魍魎かっ
わたいも手伝うナリから、罪の無い幽霊を喰らう悪を葬り去るナリよっ」

すももが好奇心に胸を膨らませ、目をキラキラさせながら言う
こういう目をしたときは大抵ロクな事がおきない事を、影悠は経験上知っている
ましてや得体の知れないバケモノのいる事が確定なこの場で、である

「(どうしても困った時に中を開けるがいい)」
朝、兄の言った事が頭をよぎり、お守り袋をポケットから出す

「まだ、どうしてもっていう段階じゃあないですよね」
影悠は自分に言い聞かせるようにつぶやき、ポケットにお守りを戻した

気がつくと太陽が沈んでゆきそうになっている
まだ明るくはあるが、夕方は着実に近づいていた

夕方を待つ間、来るべき決戦に備える

だが、いつもと違う点が一点
ここが郊外とはいえ、人通りがあるという事だ
そのために魔物の噂が立ったといえる

ゆえに銃器はもちろんのこと、槍も使えない
したがって今は戟から穂先を外し、棒だけの状態になっている
素手よりはマシだが、相手によっては分が悪いでは済まない

おまけに、状況を面白がっているすももの存在がある
すももが戦っている事は見たことが無いが、小学生なので常識的に考えれば戦闘力として期待できない
そればかりか状況によっては、かばいながら戦う必要がある
危ないから帰ったほうがいいと再三再四言ったが、もちろんすももは聞く耳を持たない
影悠にすぐそこにある危機に苦悩する

「ねぇタカナシっ、タカナシってば!」
苦悩の原因が影悠をゆさぶる
苦悩していて気付かなかったが、すももが何かを言っていたようだ

「ああ、ごめんなさい
何かありましたか?」
あふれる苦悩を一人で飲み込み、すももに返事を返す

「あそこの人、さっきからこっちをチラチラと見てるナリよ」

「すももちゃん、人を指差しちゃいけないよ」

苦笑しながらすももが指差した先を見ると、いささかならぬ距離を置いた先に黒服の男がいた
すももが指差された事に気付き、露骨に視線をそらす
確かにすもものいっている通り、こちらの様子を伺っているように見える

時は既に夕方になっていた
だが、一向に噂の魔物は現れる様子は無い
日は完全に落ち、結局この日は何も現れなかった
様子を伺っていた男もいつしかいなくなっていた

「何だったんでしょう?」

「さぁ?変質者ナリかね」

「あはははは、そうですね
すももちゃんも気をつけなければいけないですね」

そう言って気付いたが、外はすっかり暗くなっている
小学生をこのまま帰すのも危険だと判断し、事務所の隣まで送っていく事にした

すももも自転車だったんで、後方から追いかけていく
すももを送りながら、影悠は今日魔物が現れなかった事に胸をなでおろす
正直不安が一杯あったんで、助かったという思いで一杯だった

そして、事務所の隣の正義神社に到着する
奥から現れた龍鳳老人にフライングクロスチョップを炸裂させるすももを横目に、せっかく来たのだからと事務所に入る

事務所にはこの時間には珍しく、ほぼ全員いるようだった
影悠は事務所に入るなり、エンシンに声をかけられた

「あれ?小鳥遊
お前今は職場に直で行き来してるんじゃなかったのか?」

「ええ、そうなんですが、途中すももちゃんに会いましてね
夜になったんで送って来たんですよ」

「ふーん・・・そうか」

言いながらエンシンは、なにやら茶色い液体をあおる
おそらく分解するのに肝機能の助けがいる飲み物だろうが、あえて見ないことにした

「で、首尾はどうだったの?」
穂足が横から尋ねる

「ええ、それなんですがね・・・」

影悠は今日の経緯を話す

幽霊の事、目撃例の事、黒服の男の事、武器が使えなかった事、今日は魔物は現れなかった事

「へー、今日は出なかったんだ」
穂足が感心したように言う

「そうなんですよ
でも、今日は何も出なくて良かったですよ」

「せめて現場が異界化してれば良かったのにね」

「そうなんですよねぇ・・・」



553 発言者 : しろじろ〜@管理者 - 2004/07/11 22:25:44

さて、小鳥遊君に業務連絡
これからの決戦に当たって選択肢がいくつかあります
以下から選んでくださいな
・コンピューターをチカに習う
・ユイチェンから道具を借りる
・事務所の誰かを連れて行く
案があれば、上の選択肢以外の行動をとるのもアリ
さあどうする?



554 発言者 : 蕪木@小鳥遊影悠 - 2004/07/13 04:11:57

んー、ちょっと整理しますね。

チカさんにコンピューターを習うってコトは
つまり悪魔を召還して戦うってことでしょうか?

ユイチェンさんに道具を借りるというのは
とりあえずいつものコトですがw
あまり物騒でないものとかパッと見怪しくない武器(暗器とか)
とか用意してくれるかもしれませんね。

事務所の誰かを連れて行く場合そこに居るメンバーは
非常勤の須皇さんと出入禁止のミッチェルさんを除いて
チカさんと穂足さんとユイチェンさんとエンシンさんと
Midasさんと所長と・・・あとお隣の竜鳳さんかな?
この面子なら武器なしでも戦力になりそうな
Midasさんがベターかも知れませんね。

うーん どうしようかなー・・・。
もう少し考えさせてください(^^;)



555 発言者 : しろじろ〜@管理者 - 2004/07/13 07:01:50

ういす、話を書くのはいつも締め切り当日なんで、ゆっくり考えておくれやす
ちなみにこの一文
>案があれば、上の選択肢以外の行動をとるのもアリ
事務所外からの助っ人ちうのも含むのね
須皇戒、ミッチェル、六道あたりを引っ張り出すってのもアリでやんす

次に補足
コンピューターを習う
COMPって召還以外にも使えるんだぜ

道具を借りる
これはそのまんまかな



556 発言者 : 蕪木@小鳥遊 - 2004/07/14 21:19:35

>事務所外から〜
あぁ!それいいかも!
六道兄さんに頼んでみようw
(・・・またお金せびられるかもだけど(^^;))



557 発言者 : しろじろ〜@管理者 - 2004/07/18 23:05:39

んじゃ、今からそういう方向で話を書くとしよう
さて、どういう経緯になるやら





「わたしとか、ヒマな人が一緒に行こうか?」

「あ、いえ、その点についてはちょっと"あて"があるんですよ」

「あて?」

「ええ
だから、事務所の人の手を煩わせる事も無いです」

「ふーん
ならいいんだけど、ムリしちゃダメだよ」

「はい、大丈夫ですよ」

この後影悠は、少し残っていた書類を整理すると、自宅へと帰っていった



「ただいま帰りました」

自宅へと帰ってきた影悠は、さっそく"あて"である六道の部屋に向かう

「兄さん、ちょっといいですか?」

ふすまを開け中に入ると、食事をしている六道がいた
骨のあるものと般若湯が食卓に上がっているのは、いつものことであるので、あえて触れないでおく

「なんだ?
お守りなら中を見たら返品はきかんぞ」

「いえ、そういうんじゃなくてですね」

言いながら、お守りの中に何が書いてあるかが気になった
兄の言うには、開けてない今なら返品がきくという事か?
一体何が書いてあるのかが気になったが、今は別な用事で来ているのでその思案は一時中止させ、今日の出来事を一通り話す

「ふむ……
つまり俺に助っ人を頼みたいと……」

「ええ、普段から時間に余裕があると思いましてね」

「なるほどな
まぁ、ちょっと待ってろ」

そう言うと六道は部屋を出て行った
言われるままに部屋で待っていると、六道は着替えて戻ってきた

その姿は、すげ傘、黒装束に白足袋、両手には浄財を入れる黒い鉢
托鉢の格好そのものである

「そんな姿でどうしたんですか?
今から行くわけじゃないんですよ」

影悠の言葉に返答はなく、代わりに般若心経が返ってきた

「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時…」

「あの・・・兄さん?」

「照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子…」

「………」
影悠は財布から小銭を取り出し、鉢に入れる

「色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識亦復如是…」
声が大きくなるだけで、六道入道の般若心経は止まらない

「………」
今度は財布から札を抜き、鉢に入れる
とたんに般若心経は止まる

「ふむ、中々いい心がけだ
そんないい心がけの弟の仕事を手伝う事は、兄として当然と言えよう
存分にこの腕を振るってやるぞよ」

「はぁ、よろしくお願いします…」

影悠はどっと疲れてしまった



次の日

「さて、現場に行く前に影悠、これを着ろ」

そう言って六道が服を差し出す
見ると、それは僧衣である

「これは?」

「ん?これが僧衣に見えんか?」

「いえ、僧衣以外の何者にも見えないですが…
僕が言いたいのは、何故これを着るんですかという事ですよ」

「仏に協力を求めたんだ、お前もそれらしい服装をするのがスジというものだろう」

「はぁ、そうですか・・・」

「ほれ、これも持て」
無造作に錫杖を投げてよこす
受け取る拍子に輪っかがぶつかり「しゃりん」と音がする

こうして、僧衣に身を包んだ兄弟は、夕暮れを迎える少し前にそのまま現場へと向かう
昨日と違い、現場へは車での移動である

「兄さん、いつの間に車なんて買ってたんですか?」

「ふふふ、兄は偉大なのだよ」

影悠の問いに、堪えになっていない答えを返す六道
小鳥遊家のこの兄弟のやり取りは、これが普通なのである

「で、そこの墓場が現場なんですが……
……兄さん?」

車を降りて詳細を説明しようとする影悠だが、六道は一向に車から降りてこない

「どうしたんですか?」

「ん?……いやな……」

「もしかして、敵……ですか……?!」
声を小さくし、厳しい顔になる影悠

「影悠よ、わからんか?」

「なにがですか?」

影悠はしばし考えた
だが、敵ではないとすると、答えは一向に出てこない

「とりあえず、乗るんだ」

言われるままに影悠は車に乗り込む
乗ってからも、あちこちに注意を向ける

「外はな……」

「ええ……」

「暑いんだよ」

影悠は溶けそうになった

「兄さん、真面目にやってくださいよ」

「ふむ、兄が不真面目だと思うか、弟よ」

「ええ、残念ながらそう思います」

「だがな、考えても見ろ
何をもって『真面目』を定義するのだ
暑い中身をさらすのが真面目だというのか?
まぁ、百歩譲ってそれが真面目は事だとしよう
だが、真面目にやったお前は昨日の時点で何も得られなかった訳だ
となると、お前の言う『真面目』というモノはだ、この件に必ずしもプラスに働くとは言えないという事だ
違うか?」

「いや、それはそうですがね……」

「それに、だ」
影悠の言葉を遮り、六道は続ける

「お前はプロなんだろう?
プロはな、体調管理にも気を使うものだ
この暑い中外にいることで、どれだけ体力を消耗するかを理解しておらん
相手が何者かはわからんが、ただでさえ銃を封じられ、槍を封じられ、あまつさえ体力は消耗していると
これでは勝てるものにも勝てないだろう
それにな……」

六道が言葉の魔術で影悠をケムに巻こうとしているとき、車が一台横を通り抜け、ちょっと行った所で停車した
車から降りたのは黒服の男
車の中の2人には気付いていないようだ

「兄さん、あれ……」

「ん?
あれが昨日いたとか言うヤツか?」

「そのようですね……」

「ふむ……」

そのまま車内で様子を伺っていると、男はカバンから何かを取り出し、操作を始める
見たところ小型のノートパソコンのようだが、遠くてよくは見えない
しばらくすると、地面に光る魔方陣が浮き上がり、そこから大きな人型の異形が現れた

「あれは!?」

「影悠、知っているのか?」

「悪魔召還プログラム……
コンピューターで悪魔を呼び出す技ですよ
事務所の同僚に同じ技を使う人がいるからわかります」

「ほう……
ならば、一連の騒動は、あいつが起こしていると考えて間違いないわけだ」

「でしょうね、十中八九間違いないですよ」

「なるほど」

六道は無造作に車から降り、錫杖を手に男に近づいていった
影悠もそれに続く



「ちょっと話を聞かせてもらおうか」

六道、強い口調で黒服の男に話しかける
黒服の男が驚き、六道の方を向く

その間、影悠は間合いを取りながら、六道と挟み撃ちにするような形にと場所を移動する

「・・・・・・どこの回し者だ」
黒服が言う

「おとなしくするのなら、決してあなたに危害は加えません
話を聞かせてください」

反対側から影悠

異形がこちらの思惑を知ってか知らずか、ゆっくりと黒服のほうを向く

「わかった・・・俺は戦う意思は無い」
黒服はそう言って両手を挙げる

黒服の言葉にほっとした顔をする影悠

「ふむ、それじゃあまず・・・」
六道が黒服に無造作に近づく

その瞬間、黒服は上げていた両手を自分の脇に運ぶ

黒服が胸から黒いものを抜き出す
それはすぐに銃だとわかった

銃を六道に向け、厚い胸板に1発、2発と、弾丸を打ち込む
六道は胸を押さえ、苦悶の表情でうずくまる

その様を見ていた影悠の目には、それがまるでスローモーションのように映った

「兄さんっ!!」

信じられなかった
黒服がCOMPを操ること、街中で平気で発砲すること、兄が撃たれた事

影悠はすぐにも六道に駆け寄ろうとするが、目の前には銃を持った黒服と異形がいる

状況はおせじにも良いとは言えない
だが、やらねばならない

影悠は錫杖を振りかぶり、黒服の男に躍りかかった
だが、その錫杖は異形に阻止され、黒服に当たることは無かった

「邪魔するならっ!」

影悠は異形へと矛先を向け、錫杖の一撃をお見舞いした
異形はそれで一瞬ひるんだが、それだけだった

「くっ・・・」

相手が悪い、武器が悪い、状況が悪い
考えられる上で最悪の状況だった

それにさらに追い討ちをかけるように、光とともに天使が現れた
状況から考えて、黒服が召還した事は想像に難くない

あらゆる状況で不利な上、多勢に無勢
しかも、六道のおかげで逃げ出すわけにも行かない

まさに最悪だった


”どうしても困った時に中を開けるがいい”
突然昨日の兄の言葉が脳裏に蘇る
そして、そのお守りは首からぶらさがっている

今を置いて他に開けるべきタイミングは無い
影悠は躊躇無くお守りを開けた

お守りの中には、折りたたまれた紙が入っていた

「………兄さん……あなたって人は……」

影悠は異形の悪魔と天使に一挙に攻められる
右から左からと迫る攻撃
一つ一つ捌くも状況は好転せず
六道の具合が心配だが、自分のことで精一杯で、心配している余裕も今は無い
時折ちらっとにぞき見るに、ひどい出血は無い事が伺える

応戦の機会を伺う中、光とともに3対目が召還された
大型犬のような姿の悪魔である

正真正銘のピンチである
これ以上増えられては防戦もままならない

その時、六道の大きな声が聞こえた

「そこまでだ」

敵味方共に視線が集まる
見ると、六道が背後から黒服の男の首を絞めていた
六道の太い腕が黒服を締め上げる
まさにチョークスリーパーそのものである

「兄さん!」

影悠が叫ぶ
まさに地獄に仏を見た思いだった

「これぞ仏教の秘奥義”死んだ振り”だ
油断したな、黒いの
さぁ、下っ端をマイコンに戻してもらおうか」

ニヤリと悪そうな笑いを浮かべ、六道は黒服を絞め上げる

「…………」

黒服は両手をばたばたさせながら、あいかわらず無言のまま
いや、むしろ何もしゃべれないらしい

「暴れてないで早くしろっ」

六道は相手の状況がよくわかってないらしい
黒服がひときわ大きくじたばたしたかと思ったら、その後急にぐったりとおとなしくなった

「ちっ……落ちやがったか」

六道は無造作に手を離す

「兄さん、傷は大丈夫なんですか!?」

「おうよ、俺の袈裟はケブラー材で出来てるからな」

見事に罰当たりである
だが、仏の加護よりも科学的な素材によって銃弾をはじき返した事は事実である

「さて、ラスボスは倒したんで、残党の討伐でもやるかな」

錫杖を捨て、指をポキポキと鳴らす
どっちが悪人だかわかったモンじゃない

「まずはそこのお前っ」

六道は天使を指差す
当の天使は『えっ?オレ?』といった風に自分を指差す

「そう、お前だ
この中でお前が一番気に食わん
仏敵と認定してやるからかかってこい」

あっけに取られていた天使だが、バカにされていると思いいきり立つ

「おい、影悠、これは喧嘩祭りだ
お前も気に入らん奴からぶん殴れ」

「え?あ……はい……」

今まで生死をかけて戦っていた戦闘が、一気にただの喧嘩に格落ちとなる

「……兄さんらしいや」

影悠は戦いながらそう思い、かすかに笑う余裕さえ出来ていた
影悠が大きな犬の悪魔を倒したとき、六道も天使を成敗し終える
残りは異形の悪魔のみとなった

「仏の顔も三度と世間では言うものだが
生憎俺は御仏ほど慈悲深くはない」

六道は見上げるほど大きな悪魔に臆することなく近づいてゆく

「せめて戒名はサービスしといてやるから、さっさと入滅させてやろう」

異形の悪魔の大降りの攻撃をかわし、両手両足と、末端から攻撃を加えてゆく
影悠もそれにならう
小鳥遊兄弟は一撃一撃と確実に攻撃を重ね、意外なほどにあっさりと異形の悪魔を葬り去った

異形の悪魔が地面に倒れると、体から白いものが無数に飛び出してゆく
それを見ると、一つ一つに顔がついていた
影悠は、それが異形によって喰われていった魂であると気付いた
(六道は気付かなかったようだが)

「終わりましたね」

「ふむ、悪は滅びたようだな」

一息ついて冷静に辺りを見回すと、結構な数の見学者がいた
どうやら近所の住民が先ほどの銃声を聞きつけたらしい
最後には警察まで登場した



「……と、いう訳なのですよ」
六道が警察に事情を説明する

六道が行ったことは全部が全部本当というわけでもないが、僧衣と話術、ついでに野次馬の証言によって、小鳥遊兄弟が被害者であることが判明する

黒服が警察署まで連行され、一応の決着がついた
影悠は所長に事の成り行きを報告するため、探偵事務所へと向かう
運転は、来たときと同じく六道がする

「ところで兄さん」

「ん……なんだ?」

「”人を当てにするな、十分お前は強い”
これだけ書いた紙に一万円は高いでしょう」

「ん?
ああ、お守りのことか
いやなに、あれは御仏の言葉だ
衆人には1億払っても得られぬ代物だぞ」

「僕は結構あてにしてたんですよ」

「あれを開けるという事は、まだまだお前は未熟だという事だ」

六道はそう言って豪快に笑う




その後ニュースで、この件は一向に報道されなかった
裏に大きな組織が暗躍しているのかもしれない
色々な謎を残しつつ、この事件は幕を下ろした



第28話「墓地」
━終━



   余談

「なぁ、影悠よ、これってどういう風に使うんだ?}

「え?兄さん、ノートパソコンなんて買ったんですか?」

「いや、まぁ、こないだな」

六道の口ぶりに不信感を抱いた影悠
よくよく見ると、この前の黒服の持っていたものだという事に気付く

「兄さん……
奪って来てたんですか?」

「いいや、なんちゅうかね、迷惑料ってヤツよ
俺の大事な袈裟を傷物にしてくれたからな
他に、こんな人形もあるぞ」

六道が出したのは気色の悪い人形だった

「それは?」

「さぁな?
あの気色悪いデカブツが倒れた後に落ちてたんだ」

「何かの道具ですかねぇ
誰かの役に立つのかな?」

六道の目がキラーンと輝く

「さすがお客様、お目が高い
本日ならセットで2万円で御座います」

「高いですよ」

「いいや、未知のテクノロジィが満載の道具は高くて当たり前で御座います」

「せめてこないだのお守りの分くらいは引いてくださいよ」

「ふむ、かわいい弟のためだ、そのくらいは妥協してやるかな」

かくして、影悠は、何に使うかわからないゲテモノを手に入れたのであった


「あとで事務所に持っていってみますかね……」

2004/08/16

文章:しろじろ〜




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