第30話「魔道書調達」

第30話
「魔道書調達」

魔道書調達 1 魔道書調達 2003/07/12 03:51:52
発言者 : 儀同風華 --- ---
ちょっと地下に行って魔道書を取って来たいんだけど
一人で行くのがかったるいから、誰か付き合ってくれない?


2 ・・・ 2003/07/12 03:54:33
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
だとよ
誰か行ってくれないか?
俺はめんどいからパス


3 じゃあわたしが取ってきましょう〜。 2004/05/05 23:47:23
発言者 : ちか --- ---
風華さん、こないだはお手数おかけしました。
わたしで出来ることでしたら、お手伝いしますよ〜。
・・・地下って、何か大変なんですか?


4 実は地下は・・・ 2004/05/06 04:36:15
発言者 : 佐原太一郎 --- ---
あー・・・
言うの忘れてたけど、ウチの地下って異界化してるのさ
デメリットよりメリットの方が大きいから放置してんだけどね
んじゃま、行ってらっしゃーい







潰れた映画館の2階に佐原探偵事務所は存在する
そして、ここは1階の映画館跡地
テナントの借り手もなく、今では荒れ放題になっている
そんな場所のスクリーンの裏に、異界への入り口はあった

何故こんな場所に?というところにある木製のドア
明らかに場違いな代物だった

「これって、昔からあるんですか?」

チカが扉を見て風華に尋ねる

「さぁ?
太一郎は”突然ここにできた”って言ってたけどね
まぁ、どうでもいいわ、そんな事
準備はいい?」

「え?はい、大丈夫です」

風華が無造作に扉を開ける
扉を開けると、下へと続く階段があった
中は”明るい”というほど明るくは無いが、ライト無しでも歩ける程度の明るさはあった

「地下にこんな場所があったんですか・・・」

階段を下りながらチカが感心したように言う
階段を下り終えるとまた扉があり、その扉を開けると、石で出来た地下道が姿を現した

「さて、ここから先は悪魔がじゃんじゃか出るから気をつけてね」

風華は不適に笑うと、地下道への一歩を踏み出した
チカも覚悟を決めた顔をする
来るべき戦いに備えながら、風華に続いた


「この中は迷路状になっているのよ」
風華はそう言う
何の目的でこんな場所ができたのか、よくは分からないそうだ
半分異界化しているとはいっても、元になった空間はある訳で、それがどうしてこんな場所にあるのかはわからない

もっとも、それを調査するのが目的ではないので、今回は風華についてゆけばいい
後から来る場合を考慮して、COMPのオートマッピングは立ち上げてある

マップを見ながら進んでいるが、風化の動きには無駄が無い
おそらく何度もここに足を進めているのだろう

「あの、風華さん」

「ん?」

「魔道書を取りに行くって言ってましたよね
そもそも、魔道書ってどんな本なんですか?
わたしも一冊それらしい本を持っているんですが、いまいち使い方とかがよくわかってないんですよ」

「うーん・・・
使い方・・・ねぇ・・・

言われた風華はしばらく考える

「本は本だから、読んで理解を深める以外に使えるモノじゃないのよ
とりあえず、持ってるだけでも基礎は使えるようになるんだけど、自分なりに日本語に直してみるとかしてると、急に仕組みが閃いてくるって言うのかな・・・」

考えながら言葉を搾り出す
どうも、自分でも完全に理解しているわけではないらしい
言ってて自分でもワケがわからなくなっているようにも見える

「そもそも、”魔法”とは何なんですか?」

「どこまでを魔法と定義するかによって意味は変わってくるんだけど・・・」

そう前置きした上で、風華は語りだす

「力の取り出し方・・・かなぁ・・・」

「力の・・・取り出し方・・・ですか?」

「うん、『どこからか力を引き出して行使する』
・・・そんな感じかな
モノによって、どこから力を引き出すのかが変わるワケなのね
例えば━━」

風華はやや大げさな身振りで語りだす

「私たちが使ってるこの魔法
これは、魔界がパワーソースになっているのね
魔道書とかを読んで力の引き出し方を知ったら、あとはいかに効率よく引き出すかを自分で考えるってヤツね

次に、特定の宗教とかが絡んでくるものがあるわね
パワーソースは魔界なんだけど、信仰心とか伝統とかが密接に関わってくるヤツね
信心に励んだりすると、信託が降りてきたりとかで新しい技が使えるようになるのよ
事務所の小鳥遊やユイチェンはこれに該当するかな

あとは、パワーを魔界に依存しないで、人間自身がパワーソースになるモノ
いわゆる超能力とかがこれに該当するわね
ただし、自分自身がパワーソースなだけに、消耗が激しいとか、不安定だとかの弊害もあるのよ
バカのエンシンとか、ほたるっちとかがこの類ね

とりあえず、物凄く大雑把に分類するとこんなカンジかな」

「はー・・・色々あるんですねぇ・・・」

「あれ?」

風華がふと立ち止まり、首をひねる

「ん?
どうかしたんですか?」

「いや、前に来た時と道が変わっているようなのよ
前はこんな道無かったのに・・・」

「え?」

「いや、私もここを全部記憶してるって訳じゃないから、記憶違いかもしれないんだけどね
でも・・・んー?」

風華の言葉に一抹の不安を覚えるチカ
だが、その言葉に続く風華の『まぁ、いっか』という発言に、一気に脱力する

「いいんですか〜?」

「だって、道が違うなんて私の責任じゃないしさ
仕方ないでしょうよ
どうせこの辺なんてザコしかいないんだし、気楽に行きましょ」

お気楽全開の風華の発言に、逆に不安になるチカ
人生をナメてる風華と比べ、どうもチカは損な性格らしい

チカと風華は地下通路をどんどん進んでいく
途中で幾度か好戦的な悪魔との遭遇もあったが、大事には至らずに退けてゆく
風華の先導でエレベーターにたどり着き、中に入った
チカが風華に、何階まで行くんですか?と声をかけるが、風華は文字盤を見たまま返事が無い

「どうしたんですか?」

「ん……ああ、ゴメンナサイね
やっぱりここ、構造が変わってるようね
前は地下は5階以降はなかったもの」

それを聞いたチカが文字盤に目をやると、一番下の階層は地下10階となっている

「以前の倍になってるんですか?」

「そうみたいね
これは前に行ったB5まで降りたものか、それとも一番下まで降りたものか…」

「うーん……
……前に来たときと完全に変わっているんですか?」

「いや、所々は違うけど、大体は同じかな」


「それなら、まずは地下5階に行って、そこに無かったら10階でいいんじゃないんですか?」

「ん、そうね、そうしようか」


こうして、二人はエレベーターで地下五階に足を進める

「前来たときと変わってます?」

「んー……ざっと見変わってないようね」

風華を先頭に、どんどん進んでいく
しばらく進んだあたりで、コマイヌが急に立ち止まる

「ん?どうしたのよ急に」

「奥カラ ダレカ ホカノ ニンゲンガ クルゾ」

「え!?」

小さく声を上げる

「こんな場所で誰でしょう?」

「どんなヤツが来るにしろ、カタギじゃないわね
ちょっと隠れて様子を見ましょうか」

すぐ脇の道に全員で身を隠す
最初は気付かなかったような足音が、どんどん近づいてくる
単独ではなく、数人で歩いているようだ

その足音が、チカたちのすぐ傍で急に止まる
しばしの静寂の後、男の声がする

「そこにいるのは誰だ?」

「まぁ、こんな場所に居るヤツがカタギな訳はありえないですがね」

2人の男の声がチカたちのほうに向けられている

「なにか、私たちが居る事がバレバレなようですね」
小声でチカが言う

「ここは不意をうって一気に勝負をかけるほうがよさそうね」

そう言っている最中、ゴロリと鉄の塊が足元に転がった
それは、手榴弾だった
アクション映画ではよく見るが、実際にはなかなかお目にかかることは無い代物が飛び込んできて、全員の思考がショートする
その結果、戦う準備もできぬまま、その場から飛び出すことを余儀なくされる

間一髪爆発に巻き込まれることは免れたが、全く無防備な状態で敵の前に姿を晒すことになってしまった








飛び出した先には男が二人
一人の男は銃を握っており、銃口がこちらを向いていた

予想できる最悪の結末が頭を支配し、頭が真っ白になる
続いて最近あった他愛の無い出来事が意味も無く思い浮かぶ
走馬灯とはこんな感じなのかもしれない

「・・・・・おーい」

「え?」

チカは、男が何か言っているのに気付き、我に返る

見上げると、RDBの3バカの2人がいた

「おいおい伊川
爆弾投げる時にはちゃんと確認しろよ」

「そんなコト言ったって仕方が無いでしょう
僕は一番シンプルに事を運んだだけですよ」

「あの・・・」

チカが何か言おうとすると、あわてて武井がフォローを入れる

「おお、悪い悪い、この血に飢えたバカが物騒なモンを投げ込んでしまったようだな」

「血に飢えたとは心外な
僕の行動はリスクと行動力を削減しようと思ってのことです
あなたのようにムダに動かず、考えられる上で・・・」

ばこっ!「あふっ・・・」

風華の拳が伊川の横っ面にヒットする
伊川は自分の意思に反して宙を舞い、やがて万有引力の法則に従い地面に倒れ付す

「物騒なことをしてくれたお礼よ
釣りはいらないわ・・・」

風華は、倒れる伊川に追い討ちで蹴りを入れながら吐き捨てる
ドスっとシロウトでもわかるような重い音がした

「おいおい、シロウトが拳で殴ると骨折するぞ」
井川よりも風華を心配する武井

「それでいいんですか?」

「ああ、当然の報いだ」

「あ・・・貴方は誰の・・・ゲフッ・・・味方なん・・・ですか」
伊川が地獄の底から這い上がるゾンビのような声で抗議すると

「俺か?
俺は正義の味方だ」
と、軽く一蹴された

「あの、それで・・・
どうしてこんなところにいるんですか?」

さっきから聞こうと思いつつ、タイミングを逸していた事をようやく切り出した

「うむ
先日景子様の屋敷の裏の洞窟が異界化していることがわかってな
中がどうなっているかを、俺ら2人で調べに来たんだ
んで、いつの間にやら洞窟が地下通路みたくなってて、ここにたどり着いたと」

「ええ!?
この通路はあんな場所にまで続いてるんですか!?」

「へ?
お前らはどこから入ってきたんだ?」

「わたし達は事務所の1階の映画館の階段からここに来たんですよ
風華さんの欲しがっている魔道書を取りに来たんですが・・・」」

「そうそう
それで、入ってみたら以前とは若干通路が変わってて
そこで人の気配がして、その挙句あんた達だったと、そんな話よ」

「なんだって?
あんな場所まで続いてるのかよ、ここはよ」

「ほう・・・・・・」

いつの間にやら復活していた伊川がメガネを中指で上げながら言う

「失礼ですが、COMPを使える方はおりますかな?」

「あ、わたしが使えます」
チカが手を上げる

「それならば、マップのデータを頂きたいのですが
もちろん僕のデータも提供します
そうすれば、お互いマップの補完ができると思いますが如何でしょうか」

「え?
はい、いいですよ
とは言っても、わたしのデータは今日の分しかないんで、そんなに大した事はないですが」

「それでも、あった方がいいですから、是非お願いします
コード類は僕が持ってますからご安心を」

伊川は服のポケットから各種ケーブルを取り出し、まずは自分のCOMPに取り付ける

「それで、COMPはどこですか?」

伊川がイキイキとした表情でチカに尋ねる

「えっと、この子なんですが・・・」

チカはしゃがんで、LANを抱きかかえる
LANは「にゃん」と声を上げる

「!?
それが・・・COMP?
これはまた斬新なというか奇抜なというか・・・」

「なによ、モンクあんの?」

風華がチカに代わって因縁をつける

「いえいえいえいえ、滅相も無いですよ
ただ、COMPとしては比類なき外観をしてるなと感嘆するばかりです」

「イヤならいいのよ、イヤならね」

「うう・・・くっ・・・
・・・是非お願いします」

無念そうに伊川が言う

「俺からもお願いします」

武井にいたっては土下座を始める始末

「ならばよろしい
チカちゃん、LANを貸してあげて」

妙に偉そうな風華だが、チカは気にせず「はぁい」とLANを差し出す
伊川の手によってデータのリンクはあっさりと終了し、お互いのマップのデータが更新された

「おおっ!
これでようやく帰れる!」

武井が歓喜の声を上げる

「(やっぱりね・・・)」

武井の声を聞いて風華がニヤリと笑う

「よし、俺達は急用を思い出した
また会おうぜ
おい、さっさと行くぞ伊川」

そう言って、そそくさと去ってゆくバカ2人

「景子さんによろしく言っておいてくださいね〜」

「おう、まかせとけー」

小さく武井の声が聞こえた

「行っちゃいましたね・・・」

「早くお食事でもしたかったんでしょうよ」

「え?そうなんですか」

「さっきからお腹の虫がぐーぐー鳴ってたからね
この中を2日くらいうろついてたんじゃない?」

「でも、マップは持っているんでしょう?」

「こういう通路には一方通行の道とかもあるのよ
マップがあれば誰でも帰れるわけじゃないわ」

「そうなんですか〜」

チカは感心する

「それじゃあ、私達も行きましょうか」

「あ、はいです〜」



その後、風華の記憶を頼りに通路を進む
道は多少の差異はあったようだが、概ね同じだったらしい
そして、問題の部屋へと到着した

地下道に何故こんな場所が?と思うような場違いな風景だった
部屋の中はちょっとしたコンビニ程度の広さがあり、大量の本で埋もれていた

「ここに魔道書があるんですね
それで、どれがその本なんですか?」

「ん・・・ちょっと待ってて」

風華はそう言い、しばし目的の本を探す
しばらくすると「あったわ」と声が上がる

「これがその魔道書よ」

チカは目を疑った
風華が手にしたそれは、部屋のドアくらいの大きさがあったのだ
最早本とは呼びたくないサイズであり、これだと研究目的よりもコントに使われるほうがふさわしく見える

「これを・・・持っていくんですか?」

「あははははは
バカのエンシンならいざ知らず、それは流石に無理よ
だから前に来たときは持ち帰るのを諦めたのよ」

「そうですか」

それを聞いて、チカはちょっと安堵する

「必要なページだけ写真に撮っておくの」

風華はそう言って古そうなカメラをバッグから取り出す

「それは・・・?」

「太一郎の机から持ってきたのよ
なかなか良さそうでしょう?」

「ちょ・・・ちょっと見せてください・・・」

チカはそのカメラを見て、全力で嫌な予感がした

「あー・・・やっぱり・・・」

「ん?どうしたの?」

「このカメラって、デジタルカメラなんですけど、古いカメラなんで性能が低そうなんですよ
多分今のカメラつきの携帯電話よりも画素数が低いと思います
しかも、メモリーが8メガしかないんで、これだとそんなに多く撮影できないですよ」

「ええっ!?」

風華は心底驚く

「ええー・・・どうしようかしら・・・
筆記用具も無いし・・・」

「それじゃあ、この子に記憶させましょう」

チカはLANを持ち上げて言う
そう言われて「にゃーん」と、肉声としか思えない声で鳴くLAN

「へぇ・・・そんな事ができるんだ」

風華が心底感心した声を上げる

「それじゃあ、どこが必要だか教えてください」

風華はそう言われて我に返る
本をばさばさと開いて必要な部分を言うと、今度はチカがLANに何か言う
その姿は、本のデータを記録していると言うよりは、動物に芸を教えているように見えた

しばらくそんな作業が続き、40分程度かけて作業が行われた

「これで大丈夫です
上に戻ったら紙に印刷してお渡ししますよ」

「ありがとう、助かるわ
それじゃあ、帰りましょうか」

「はいです〜」

その後二人は事務所へと戻っていく
ごく一部だけ、一方通行である都合上迂回が必要な道があったが、風化の記憶を頼りに迷うことも無く戻ることが出来た
事務所に戻ると、電話中の所長が二人を見つけて何か声をかける

「お、丁度いいところに
君ら今からちょっと時間有るかい?」

「え?あ、時間は今空きましたけど・・・」

所長はそれを聞くと、電話口に向かって
「あ、今丁度大丈夫になった
今から向かってもらうことにするよ」

「えっと、なにか急な仕事があったんですか?」

「いやね、RDBのバカお嬢様からなんだけど、2日前から手下が行方不明だから、探して欲しいってんだよ」

「え!?」

「なぁに、あのバカコンビまだ帰ってないの?
あれから結構な時間が経ってるじゃないの」

「あ、風華さん、あれですよ、一方通行の道
わたしは今日が初めてだから、来る時のマップしか登録されてないんですよ」

「あ!」

「え?
あいつら中にいたのか?」

「そうなんですよー
実は・・・」

チカが事情を説明し、ようやく所長が納得する

「それじゃあ、めんどくさいけどちょっと行って来るわ
なに、すぐ戻れるわよ」


その後、地下道から腹の虫を盛大に鳴らした二人を無事に保護し、無事に戻ったことでこの件は幕となった

事務所の地下道にはまだまだ謎が多く隠されているようである




第30話「魔道書調達」
━終━



2004/12/17

文章:しろじろ〜




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